資本性ローンとは?

2021年3月23日 オフ 投稿者: Hill Andon

【資本性ローンとは?】

破産や民事再生など「法的倒産」をした時に、銀行借入や買掛金など他の債務に比べ返済順位が劣後する融資のことです。劣後ローンともいいます。
通常債務>資本性ローン>自己資本の順に劣後します。
会社が潰れるときは、まず取引先と銀行に払う。資本性ローンはその次。(最後に自分の元手⇒普通は返ってこない)という意味です。
資本性ローンを借りると、他の金融機関からは、資本性ローンの分まで「自己資本」と見做されます。
ある意味で増資したのと同じ効果がありますが、増資ではないので会社の支配権に影響がありません。
通常の融資を受けた場合、会社の決算書は「負債比率が高まり財務状況が悪化した」と評価されますが、資本性ローンの場合は「資本が増強され財務状況が改善された」と評価されます。
しかも、一般に資本性ローンは融資期間が長く、期限の最後に元本を一括返済するため、財務体質を改善しながら中長期的な事業戦略に活用できるというメリットがあります。
コロナ関連融資などで資金繰りはどうにかつながったものの、これから先の事業戦略/財務戦略をどう立てていくか?という問題意識のある企業には一考に値する金融スキームといえます。

【コロナ対策資本性ローン】

資本性ローン自体は20世紀の頃からあり、1990年代の金融危機の際、多くの金融機関に注入されました。
2000年代に入り、不良債権問題がクローズアップされると、中小企業の事業再生の局面でも活用されましたが、この場合は既存の通常債務を劣後債務に切り替えるDDS(Debt Debt Swap)が主流でした。
いわゆる新規融資を資本性ローンで注入するスキームが金融商品化されたのは日本政策金融公庫や日本政策投資銀行、商工中金などの政府系金融機関がベンチャー支援や事業再生資金として制度化してからです。
今回のコロナ禍に対応し、上記の政府系金融機関がコロナ対応型の資本性ローン制度をリリースしています。
(画像は商工中金さんの資料です。よくできているので転載させていただきます。)

また、横浜銀行や関西みらい銀行など資本性ローンを取扱う民間金融機関も出始めました。

【基本的な条件】

資本性ローンの基本的な融資条件は以下の通りです。
取扱い金融機関によって若干異なりますが、「自己資本」として認められる要件に適合させると概ね似たような設計となっています。

  • 貸付期間:5年~20年(期限一括償還)貸付利率:1%~5%程度 業績連動型 借入企業の業績が良くなると利率も上がる。⇒ 株式の配当のイメージ
  • 担保・保証:なし融資金額;数千万円~数億円(取扱い金融機関によって異なる)
  • 劣後効果の期限;融資期間の最終5年間において、毎年、融資金額の20%が通常融資に順次振り替えらる。(「資本性」を失う)
  • その他;①事業計画の策定とその実施状況のモニタリングが必須②一定の要件を満たした投資ファンドや中小企業再生支援協議会、認定経営革新等支援機関等の関与が必要③メイン金融機関などによる協調支援が必要

【モニタリング】

貸し手側からすると、倒産時には通常融資に回収が劣後し、担保も保証人も無し。しかも出資ではないので会社の支配権には関与できない。ということでかなりのハイリスクの融資です。
そのため前述の「その他」に示されたような条件がつきます。
キチンとした事業計画を立て、その遂行をモニタリングすることを義務付けています。
また、中小企業再生支援協議会などの公的機関を計画立案やモニタリングプロセスに関与させることでその信頼性を高めています。
さらに、メイン金融機関などとの協調投融資(通常の融資との協調やベンチャーキャピタルによる出資との協調もあり得る)により、「皆で渡れば怖くない」方式を取っています。

【出口イメージ】

資本性ローンを借りた側の「出口」のイメージとしては、融資期間中に収益を上げ、資本性ローンを返済しても十分なだけの充実した自己資本が蓄積されていることが理想です。
前述した「事業計画」においてもそうした融資期間満了時の一括弁済に耐えれるだけのキャッシュフローとバランスシートの充実へのストーリーが示されている必要があり、それを遂行していく必要があります。

【まとめ】

このように、無担保無保証の劣後借入という借り手にとって「美味しい」資本性ローンですが、実際に融資を受けるには事業計画の策定と、公的機関の関与も含めたモニタリングを受け入れなければなりません。
これらを面倒と考えるか?規律ある経営を行っていくための企業体質づくりの場と考えるか?によってこのスキームの意味や価値が異なると思います。
あなたの企業ではどのように考えますか?
(この稿おわり)