病気治療(がん)と仕事の両立~第1回~

病気治療(がん)と仕事の両立~第1回~

2022年2月5日 オフ 投稿者: なかさん本舗代表 中本寧

現在、病気治療と仕事の両立が大きな社会課題となっています。以前であれば退職して治療をせざるを得なかったような病気でも医療技術の進歩により仕事を続けながら治療をできるケースも増えてきました。一方で一般的に年齢が高くなるにつれ、病気にかかる確率が高くなる傾向にあることから、今後定年延長やシニア社員の雇用などで働く人の高齢化が進むと病気を抱えながら仕事を続ける社員も増えることが予想されます。

そこで今回は4回シリーズで社員の病気治療と仕事の両立について「がん治療」に絞って企業がどのように図っていくかについて考えてみたいと思います。

(1)がんを抱える労働者の状況

東京都が平成31年に行った調査(1)によると過去5年間にがんに罹患した従業員がいた企業の割合は42.3%で、約半数に上っています。

次にがん罹患後に離職した人の割合を見ると、全体で 16.7%でしたが、がんの進行度初期の段階である 0~Ⅱ期の患者でも 11.8%に上ることが分かりました。

離職の理由としては、「治療・療養に専念する必要があると思ったため」が 66.2%、「体力面等から継続して就労することが困難であると思ったため」が 46.5%で でしたが、他にも「職場から勧められたため」(21.7%)や「職場に居づらくなったため」(21.7%)、「がんと告知されて驚き、就労の継続をあきらめたため」(11.3%)と回答した人もおり、“がん”に対する労働者自身の不十分な理解、職場の理解や支援体制不足により、離職に至ってしまうケースが少なくないようです。

厚生労働省HP:治療と仕事の両立支援ナビより

従業員にとっても退職により仕事がなくなるのは大きな問題ですが、企業にとっても人手不足のいま、仕事に精通した社員が退職するのは経営的にも大きな打撃になります。

(2)病気の治療と仕事の両立に関する企業の状況

企業側の状況を見ると、がんに限らず病気全般に関して従業員の病気の治療と仕事の両立に関する取組を「実施している」と回答した企業の割合は51.2%と約半数にとどまっています。治療と仕事の両立のための取組を実施していない理由としては、「従業員から明確な要望がない」と回答した割合が 45.8%で最も高く、次いで「何に取り組んでいいのかわからない」が 36.8%にのぼりました。企業側もやりたいが、具体的な方法が分からないと考えているようです。

 (3)国の両立支援に関する方針

厚労省が令和3年3月に出した両立支援のためのガイドライン(2)では“従業員”、“事業者(企業)”、“医療機関”の3者の連携による治療と仕事の両立を打ち出しています。ガイドラインにサンプルがありますが、情報シートを使って情報共有を行うとともに就業継続に関する希望の有無や、就業上必要な措置及び治療に対する配慮に関する要望について、従業員本人から聴取し、十分な話合いを通じて本人の了解が得られるよう努めることが必要だとしています。企業には「安全配慮義務」(労働安全衛生法)といって、仕事をさせることでその病気を悪化させないように配慮し、従業員に安全にそして健康に働いてもらうようにする義務がありますが、こういった3者の連携により、がんを抱えながら働く社員に対しそれを果たすこと可能になります。

国は両立支援を進める企業に対する助成金も用意しています。また東京都をはじめとした自治体でも、治療と仕事の両立に向けて積極的に取り組む企業を支援するための独自の助成金を設けているところもあり、財源がないため両立支援ができないといったケースに対応しています。

次回は引き続き東京都の調査と当事者の方のお話をもとに治療と仕事の両立を実際に行う人たちが企業にどんなことを求めているかについて考えてみたいと思います。

※参考:

(1)東京都がん医療等に係る実態調査報告書(平成31年3月)
(2)「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン」令和四年厚労省

本稿のまとめ

  1. がん診断後、初期段階の0~Ⅱ期でも11.8%が退職
  2. “がん”に対する労働者自身の不十分な理解、職場の理解や支援体制不足により、離職に至ってしまうケースが少なくない
  3. 企業にとって人手不足のいま、仕事に精通した社員が退職するのは大きな打撃
  4. 国は両立支援のため”労働者、事業所(企業)、医療機関“の連携を推進、助成金も用意

(次回に続く)