デフォルトってなあに? 金融用語としての「デフォルト」について調べてみた。

デフォルトってなあに? 金融用語としての「デフォルト」について調べてみた。

2022年4月10日 オフ 投稿者: Hill Andon

ウクライナ侵攻に端を発する経済制裁により、ロシアの国債の「デフォルト」の可能性が取り沙汰されています。

また、中国の大手不動産業者「恒大集団」の経営危機が繰り返し報じられています。
「一部デフォルト」「事実上のデフォルト」・・・・。

ITの世界ではこの「デフォルト」なる言葉、「初期設定値」みたいな意味で使われていますが、金融の世界では「債務不履行」です。
では「債務不履行」ってどういう意味?「一部」とか「事実上」がつくとさらにどういう意味になるの?

ブリタニカ国際大百科事典によると「デフォルト(default)」とは、
「債務者が利息支払いや元本償還ができなくなり、契約条件どおりの返済を履行しないこと。通常債務者がこうした状態になったと判断した場合、債権者は「デフォルト宣言」を行う。この宣言によって債権者は返済期限を待たずに元本の回収を行える。 1979年アメリカの銀行はイランに対するデフォルト宣言を行い、イラン資産凍結令により差押えたイラン預金と相殺して融資を回収した。」
とあります。

要するに借金の利息や元本が約束通り返済できない状態、ですね。
この状態になると「返済期限を待たずに元本の回収を行える」とあります。

上記やロシアの場合は国際社会での例ですが、恒大集団のような民間、さらには日本国内の民間取引においてはどうなんでしょうか。

日本の民法においてはデフォルトに関連する言葉として「期限の利益喪失」が出てきます。
例えば借金の契約書において「○月○日までに本契約に基づく債務を支払う」と定められていた場合、債務を支払う側としては「○月○日までは債務を支払わなくてよい」ということとなり、債務の支払を猶予されていることになります。この債務の支払の猶予のことを債務者にとっての「期限の利益」と呼びます。
そして民法137条においては、

  1. 債務者が破産手続開始の決定を受けたとき 
  2. 債務者が担保を滅失させ,損傷させ,又は減少させたとき
  3. 債務者が担保を提供する義務を負う場合においてこれを提供しないとき
    をそれぞれ期限の利益の喪失事由として定めています。

つまり、(1)(2)(3)の事態が起こった場合、「期限の利益」が失われる。債権者(貸し手)は、返済期限を待たずに元本の回収を行える、ワケです。
要するに、日本の法律上は、(1)(2)(3)の事態イコール「デフォルト」と言って良さそうです。

一方で、金融機関との個別の取引においては、借入先の企業と金融機関との間で締結される「銀行取引約定書」(「信用金庫取引約定書」などの場合もあります)において、「期限の利益喪失事由」が定められており、これに該当すると「期限の利益」を失う。つまり「耳を揃えて借金返せ!」となります。

銀行取引約定書の「期限の利益喪失事由」には、上記のような民法の定めを踏まえた事由だけではなく、「債務の一部でも履行を遅滞したとき」や「借入人が行方不明になったとき」、さらには「いっさいの約定の1つにでも違反したとき」「債権保全を必要とする相当の事由が生じたとき」といった「何でもアリ」みたいな事由まで含まれていたりします。
おお怖わ。

恒大集団の場合、昨年12月に期限の来た約8000万ドルの債務が返済されていない、という状況のようで、「中国政府系の企業がメンバーに入る「リスク管理委員会」を設置し、債務再編などを進めている」などと報じられています。
恒大集団の膨大な債務のうち、デフォルト状態に陥っているのはその一部の債務のようですが、債権者の一部には既に期限の利益を喪失させ、債務弁済を求める訴訟を提起する動きも出ているようです。

金融取引においては、多くの場合、一部の債務が不履行になった際、他の一切の債務について「期限の利益」を失うと定められており、これをクロスデフォルトと言います。
恒大集団のケースでもまだデフォルトしていない債権についてこれを適用してデフォルトが宣告される可能性が考えられますが、債権者たちが雪崩を打って回収に動くことで事態が金融危機に発展することを恐れる中国政府が介入してそれを押し止めているようです。
「大き過ぎて潰せない」と。

金融機関OBの方に聞いた話では、日本国内の中小企業金融取引においても、クロスデフォルトの状況に陥りながらも債権者(=金融機関)がそれを適用しないケースがしばしばあるとのこと。「ゾンビ企業」ですね。
これは必ずしも「大き過ぎて潰せない」わけではなく、「あの銀行が引き金をひいた」とか「優越的地位を乱用して借金を取り立てた」といった風評が流れるのを嫌って手控えるようです。
「どうせ返せないのなら手荒なことをやったって仕方がない」といったところでしょうか。
(ただし、債務者が破産などの法的手続きを取った場合は、契約や法律に則った手続きを厳正にトレースすることが優先されるようです)

ここまでは民間レベルでの「デフォルト」を中心に見てきましたが、ここで政府間の債権/債務関係におけるデフォルトに話を戻しましょう。
というのは、政府間のデフォルト問題(ソブリン・デフォルトというそうです)においては、民間にない「デフォルト」状態があるのです。
それは「モラトリアム」と言われているもので、債務国が(多くの場合)一方的に債務の履行を拒否、もしくは一時停止する宣言をすることを指します。
「借金踏み倒し宣言」ですね。
確かに民間では(というか日本人の倫理観では)ちょっと考えられない。
ちなみに過去モラトリアムを宣言したことがあるのは、ペルー、パキスタン、ブラジル、メキシコ、ロシア、アルゼンチンといった国々。
何故かラテンアメリカの国々が多いですね。
(今回のロシア国債のデフォルト懸念についてはいささか異なるメカニズムによるものと思われますので、機会があれば取り上げさせていただきます。)

以上「デフォルト」についてまとめてみました。

【参考にしたサイト】
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB085850Y1A201C2000000/
https://kotobank.jp/word/%E3%83%87%E3%83%95%E3%82%A9%E3%83%AB%E3%83%88-6393
https://higashimachi.jp/
https://www.ifinance.ne.jp/glossary/loan/loa259.html
http://www.shinkin.co.jp/hokkaido/basicnavi/pdf/torihikiyakuzyousyo.pdf
https://www.sangiin.go.jp/japanese/annai/chousa/rippou_chousa/backnumber/2014pdf/20140701003.pdf
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%87%91%E8%9E%8D%E3%83%A2%E3%83%A9%E3%83%88%E3%83%AA%E3%82%A2%E3%83%A0
https://www.tsr-net.co.jp/guide/feature/establishment/index.html
https://www.nri.com/jp/knowledge/blog/lst/2021/fis/kiuchi/1209
https://www.sankei.com/article/20220321-K2NWKDUBRJKGNLWR7R737XQHRI/
https://news.yahoo.co.jp/articles/74e9e0850dfe9581d594a305b283882bc66284cd