病気治療と仕事の両立~第3回~

病気治療と仕事の両立~第3回~

2022年8月20日 オフ 投稿者: なかさん本舗代表 中本寧

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「治療と仕事の両立」シリーズも3回目となりました。今回は医療側の方のお話をもとに治療と仕事の両立を進めていくうえでどんな支援を受けることができるかについて考えてみたいと思います。

そろそろ復職の時期。さて企業としてどうする?

社員ががんと分かり入院、そして治療が進み、そろそろ復職の時期となった際に“治療・回復の状況はどうなんだろう?”、“復職に際しどんなことに気を付ければよいのか?”、“当事者にどこまで聞いていいのかな?”など戸惑うケースが多くあると思います。特にがんと診断後、即入院となり、治療前に当事者と十分コミュニケーションが取れていない場合は特に心配になりますよね。
大学病院やがん診療連携拠点病院には「患者サポートセンター」「がん相談支援センター」などの相談部門があります。近年、国が治療と仕事の両立支援を推進し、両立に関する指導を行うと保険点数の算定ができるようになったこともあり、各医療機関もこういった窓口・部門を強化しています。そこで働く医師、看護師、ソーシャルワーカーといったスタッフが退院後の治療・就労についても相談に乗ってくれています。当事者の同意のもと、このような窓口を通して復職に関する具体的なアドバイスを得ることが可能です。今回、A病院の「がん相談支援センター」のスタッフの方にお話をうかがうことができましたので、この話を中心にご紹介したいと思います。

医療側からのアドバイス

復職にあたっては主治医より復職に関する診断書を取得することになりますが、この診断書の内容だけでは具体的にどのような配慮をして良いか分からないケースが少なくありません。そこで同センターでは当事者経由で、企業側に「勤務情報提供書※1」を記入してもらい、当事者の仕事の内容や職場の状況を把握した上で、当事者及び主治医との間に立ち、治療の状況や復職後に必要な配慮について意見書を作成しています。企業側はこれに基づいて当事者の体調や治療の状況に合わせた具体的な配慮及び復職プログラムを作成することができます。
がん治療は一人一人の状況が異なり個別性があるので一概には言えませんが、配慮の一例として大腸がんにより人工肛門を造設された方のケースを紹介してくださいました。
「人工肛門を造設することとなった場合、自分で排便をコントロールするのが難しくなるためトイレに行く回数が増え、トイレを占領してしまう可能性があることをまず企業側に理解してもらう必要があります。そして必要な装具を取り換えるため、多機能トイレがあれば良いですが、難しい場合は装具を置く棚があると当事者としてはとても便利です。また本人はなんとなくにおいが気になったり、意図せずにおならが出てしまうこともあるため、接客業の場合は特に配慮が必要です。」
本人及び企業側では気づきにくい点について医療側から具体的なアドバイスがあるのはとても参考になりますよね。

緊急時の対応 ”ワークフロー”

復職にあたっては業務上の配慮だけでなく、就業中の突然の体調不良に対する準備をしておくことも有効です。どのような状態になった場合は救急車を呼ぶ、もしくは医療機関に連れて行く、または社内で休ませ様子を見る、などと言った“ワークフロー”を緊急連絡先とともに準備しておくと急な対応が必要になった時にも役立ちます。現在大きな病院は地域の診療所・クリニックのとの“地域連携”を進めており、それを利用して対応を考えることもできます。

安心して復職できる準備

さて同センターのお話しではがんと分かった時点で治療の事で頭がいっぱいとなり、会社側と事前の協議が十分になされないまま入院、休職に入ってしまうケースが少なくないそうです。このような場合、治療が進み、そろそろ復職を考える時期になって初めて、休職期間が残り少なくなっていることに気付くケースも多くあるそうです。慌てて復職の話にならないように日頃よりコミュニケーションをしっかり取り、社員が安心して治療し復職できるように準備したいところです。会社の就業規則、特に疾病に伴う、休暇・休職制度や自社が加盟する健康保険組合の制度について当事者がアクセスしやすい環境を作っておくとともに休業・休職中の留意事項をまとめたパンフレットなどを準備しておくのもよい方法でしょう。

日頃からの信頼関係

さて取材に応じてくれた別の病院の看護師さんから読者の皆様に一つお伝えして欲しいと言われたことがあります。
「当事者の方は退院・復職した時点ではがんになる前の状態に100%の状態に回復して戻っていないことがほとんどです。一方で当事者はがんになったことで『退職せざるを得ないのではないか?迷惑をかけてしまうのではないか』とあれこれ悩んでしまい、いきなり『なんでも言って』と言われても自分のことを話すのはとても難しいです。結果として無理してしまうこともあります。その場合は本人の体調だけでなくサポートをする同僚にも影響があります。ぜひ日頃から話しやすい職場の雰囲気を作っておいてもらえると当事者の方も安心して必要な配慮について話すことができ、順調に仕事に戻ることができると思います。」
この看護師さんが仰る通り、日頃から社員と信頼関係を築いておくことが必要です。休業・休職中に当事者は職場の人と連絡が無くなり孤独を感じることも多くあります。定期的に連絡を行い、関心を持っていることを伝えることも安心して治療に専念できる一因にもなります。その中でいかにお互いが理解し、サポートできる体制を作れるかが、貴重な戦力である社員を失わなくて済むかだけではなく、社員全体が安心して働ける体制を作ることにも繋がってくると思います。人手不足の現状に於いて採用自体が難しいうえに、新しい社員を採用し育成するには費用も時間もかかります。ぜひ中長期的な視点で両立支援の体制を作っていただければと思います。

次回はいよいよ最終回です。両立支援がうまく行っている事例についてご紹介する予定です。
お楽しみに!
※1「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン」令和三年厚労省様式集を基に同センターが作成