曲がり角を迎える事業再構築補助金~秋の行政事業レビューでは廃止の声も?~

曲がり角を迎える事業再構築補助金~秋の行政事業レビューでは廃止の声も?~

2023年12月12日 オフ 投稿者: Hill Andon

2021年3月に始まった「事業再構築補助金」(以降「再構築補助金」と表記)。
多様な資金使途に利用可能で上限金額も大きく、継続的な公募が行なわれる制度ということで中小企業向け補助金としてはある意味「画期的」と大変注目を浴び、大袈裟に言えば「再構築補助金ブーム」が巻き起こりました。

その再構築補助金もひとつの転機を迎えようとしています。

秋の行政事業レビューでは厳しい意見も

2023年11月に開催された、各省庁の事業内容やその効果を検証する「秋の行政事業レビュー」(以下、「レビュー」)では、「本来やらなくてよい事業に公金が使われ、中小企業の新陳代謝が阻害された」「予算の在り方を見直すべきではないか」等と再構築補助金に対して厳しい意見が出たそうです。

再構築補助金に関して複数年度に使える「基金」の形で中小企業庁が確保した予算は2兆4408億円(2020年~2022年)にのぼり、そのうち1兆6740億円が採択された(2023年6月採択発表の第9回まで)そうです。採択件数は7万6224件(同年9月採択発表の第10回まで)とのこと。
確かに大盤振る舞いですね。

さてこの再構築補助金のいったい何が問題で「厳しい意見」が出されたのでしょうか?

雑誌報道等によると前述のレビューにおいては①資金使途の適切性②補助金の審査を民間の人材派遣会社に丸投げしていること③補助金申請をサポートする「認定医経営革新等支援機関」(認定支援機関)の関与の仕方に一部不適切なものが見受けられること、などが批判の対象として挙げられていたようです。

「厳しい意見」の中身を検証

このあたりについて、筆者なりの認識や考えを少し述べさせていただきます。

①資金使途の適切性

再構築補助金のウェブサイトでは「中小企業等の事業再構築を支援することで、日本経済の構造転換を促す」ことが同補助金の目指すところであると示唆されています。
また、同サイトで公開されている資料の「事例」のページには「ガソリン車向け部品メーカーがEV向け部品製造に取組む」といった例や「居酒屋が冷凍食品のECサイト販売を手掛ける」「ヨガ教室がオンライン形式で運営を開始」する事例などが挙げられています。

レビューにおいては実際に申請され採択されている事案において「中小企業等の事業再構築を支援することで、日本経済の構造転換を促す」という趣旨から逸脱したケースが見られることが問題視されたようです。

確かに筆者が関与し、採択された事例で言うと「酒類を提供する飲食業者がヘッドスパを開業する」「生活関連サービス業者が法人向けの書類など荷物保管事業に取組む」(守秘義務の観点から敢えてデフォルメした表現としています)といったケースについてそれらが「日本経済の構造転換を促すか?」と問われると基準の置き方によってはYESともNOとも答えることができるかもしれません。

公開事例の「ガソリン車向け部品メーカーがEV向け部品製造に取組む」に比べると格調の高さではいささか見劣りするかもしれませんね。
でも前述した「事例」のページの「居酒屋が冷凍食品のECサイト販売を手掛ける」や「ヨガ教室がにオンライン形式で運営を開始」とは大差ないのでは?と思ったりもします。
敢えて言えば、「事例」ではECとかオンラインと言ういわゆるDX(デジタルトランスフォーメーション)絡みのワードが入っているけれども筆者の関与事例にはそれがない、というあたりか・・・・。

再構築補助金制度が始まった時点から「日本経済の構造転換促進」という大義名分の存在は(少なくとも筆者は)十分認識していましたし、その一方で「居酒屋」や「ヨガ教室」の事例が既に公開されていて、そうした切り口での申請にも門戸が開かれているものと認識していました。
実際に筆者関与事例の「ホットスパ」も「書類保管」もちゃんと採択されましたし、過去の採択事例においても同じような切り口/カテゴリーの事案を多数見ることができると思います。

制度設計においてはこうした「格調の高くない」事案も採択していこうというスタンスであった(今もある)ことは間違いなく、だからこそ多くの中小企業がこの補助金に応募したのではないでしょうか?

レビューにおいてこの部分が「やり玉」に挙がったことは、その指摘が正当とされればこの補助金の制度設計(もしくは採択審査のスタンス)自体に問題があったことになってしまうように思います。

かなり根源的な問題提起ですね。

②補助金の審査を民間の人材派遣会社に丸投げしていること

筆者の記憶では再構築補助金の制度がスタートした直後(第1回~第2回頃)とそれ以降では事務局の対応が変わったな、という印象があります。
ソフトになったというか接客慣れしたスタッフになったというか。
このあたりから事務局業務が「民間の人材派遣会社」に委託されたのでしょうか。
半面、電話に出た担当者の方では問い合わせなどにその場で十分回答できず、都度「確認しますのでお待ちください」と待たされた挙句に中途半端というか玉虫色というかほとんど回答の意味をなさない対応に終始する、といったケースが多くなった気がします。
受け答えは丁寧であるが、担当者自身が自分の言葉で話していない、というか。
「お役所仕事」なので仕方がないのかもしれませんが、むしろ初期の頃や別の補助金の事務局(お役人プロパー?)の方がぶっきらぼうな一方で聞きたいことにちゃんと答えてくれた印象があります。あくまでも印象ですが。

このあたりが「丸投げ」の弊害?

補助金の事務局業務に不慣れなスタッフが大量に配属され、十分な教育や経験がないままに実務に携わっていたのではないか?と推測します。あくまで推測ですが。
更には再構築補助金の制度自体が細かい点で幾度も幾度も改定された結果、申請する事業者も運営する事務局も両方が混乱をきたした、ということもあったと思います。結果として様々な審査のスピードが非常に遅い、審査プロセスが細分化されて担当者によって言うことが異なる、前言を翻すなどの事象が少なからず見られます。

個々の改定点をみていくと、制度の使い勝手を良くしたり円滑に実務を進めていくための改良/改善といった改定もありましたが、一方でそもそもの制度設計の時点で目配りが足らず、後になって合わなくなったつじつまを無理やり合わせにいったんじゃないか?と勘繰りたくなるような「改定」もあったように思います。

筆者としては「丸投げ」の功罪よりは検証されるべきはこうした制度運営自体なのでは?と感じています。

③認定支援機関の関与に一部不適切なものが見受けられること

再構築補助金の制度においては、認定支援機関は事業計画の策定を支援する、という建て付けになっています。

再構築補助金のウェブサイトをみると「認定支援機関について」のページにおいて「高額な成功報酬等にご注意」というタイトルで「提供するサービスの内容とかい離した高額な成功報酬等を請求する、経費の水増しを提案するなどの悪質な業者等にご注意ください。」との記載があります。

また、別途報じられたところでは、「事業再構築補助金を担当する事務局は公式サイトを更新し、第10回公募の大阪府の認定支援機関の支援先で、公募要領で禁止している代理申請が疑われる申請があったことを公表しました。この申請自体は審査の対象外となりました。代理申請は公募要領に反する行為として採択取消、または交付決定取消になり、以後の公募への申請も受け付けない可能性があるとして注意を呼び掛けています。」とのこと。

認定支援機関の属性としては、金融機関や各地の商工会議所、民間のコンサル会社や会計事務所などですが、これらのうち金融機関や商工会議所などは申請企業が作成した計画書などの申請資料の確認業務を無報酬で引き受けているところが多いようです。

かたや民間のコンサルタント会社や会計事務事務所、中小企業診断士などの認定支援機関は事業計画の立案から申請、採択後の諸手続きに至るまで手取り足取りのサポートを行ない、役務の提供にかかる報酬を受け取っているようです。

こうした「有償サポート」の中にはサービス内容に見合わない高額な報酬を得ていたり、公募要領での禁止事項にまで踏み込んだ「支援」を行なっていることがあり、国は問題視しているようです。

筆者も「有償サポート」を行なっている認定支援機関の一人ですが、指摘の内容に関しては真摯に受け止め、支援業務の内容や報酬の水準については慎重に吟味して行っていかねばならないと改めて肝に銘ずるところですが、一方で再構築補助金制度が求める事業計画の水準や採択以降の諸手続きの煩雑さは、一般の中小企業のリソース(実際に申請業務を行なう従業員の専門性や業務に割ける時間など)にとってはなかなかにハードルが高く、使い勝手のよろしくないものなのではなかろうか?と常々感じています。

「この程度の計画の策定に必要な会計の知識や事業/市場分析の知見、ITスキルがないようでは採択される資格がない」ということなのかもしれませんが、それでは冒頭に述べた「大盤振る舞い」のニュアンスとの間にいささかの齟齬を感じます。

根っこにはボタンの掛け違い?

レビューでの指摘事項について筆者が等しく感じるのは、それら指摘事項が再構築補助金の創設当時には想定されていなかった、詰め切れないままにスタートさせた事象が後発的に発生したり明るみに出たりした結果なのでは?ということ。そもそもの見込み違い、ボタンの掛け違いが根っこにあるのでは?ということです。

再構築補助金制度が構想された時点でコロナ禍という経済環境/社会環境が想定されていたどうかは窺い知れませんが、結果的にはコロナ禍のさなかに制度はスタートしました。

「まずは中小企業の救済を」というばら撒き色の強いスタンスが「中小企業等の事業再構築を支援することで、日本経済の構造転換を促す」という基本コンセプトとうまく折り合いがつかないままに生煮え状態でジョイントされて走り出してしまった印象があります。

創設当時と今とでは再構築補助金を取り巻く環境は、経済環境、社会環境、さらには政治環境まで変貌してきています。

事業再構築補助金という制度は、曲がり角を迎えているのかもしれませんね。

本稿の執筆に当たっては、
事業再構築補助金のウェブサイト:https://jigyou-saikouchiku.go.jp/
雑誌「金融財政事情」2023.11.21号:https://kinzai-online.jp/node/10969 

を参考にさせていただきました。

(この稿終わり)

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