事業再構築補助金 ~概算払いの落とし穴~

事業再構築補助金 ~概算払いの落とし穴~

2022年5月3日 オフ 投稿者: 亀田 徹

「中小企業向け補助金といえばコレ!」と言っても過言ではない「事業再構築補助金」。
個人事業主からそこそこの中堅企業まで、必要資金の3/4~1/3まで補助されるため幅広く応募されています。
コロナ禍で既存事業の売上が上がらず、しかし新規事業を行いたいが、資金がなくてできなかった人たちにはうってつけの補助金といえます。

しかし実際のところ、補助金は採択されてからが実は大変。事業再構築補助金で言うと、「交付申請」や「実績報告」など実際に補助金が入金されるまでには様々な手続きが必要で、その過程には様々なトラップ(罠)や落とし穴が隠れています。
本稿では、そうした採択後の手続きの中から「概算払い」とその「落とし穴」について筆者の直面したケースをご紹介します。

そもそも事業再構築補助金とは?

事業再構築補助金は、ウィズコロナ・ポストコロナ時代の経済環境の変化に対応するために、中小企業等の新分野展開、業態転換、業種転換等の思い切った「事業再構築」の挑戦を支援する補助金です。(中小企業庁;ミラサポPlusより)

申請するための要件としては、

  1. コロナ禍の影響によって売上が減少していること
  2. 新分野展開、業態転換、事業・業種転換等、指針に示す「事業再構築」を行うこと
  3. 認定経営革新等支援機関(国の認定を受けた中小企業診断士、金融機関等)と事業計画を策定すること

等が挙げられます。
様々な「枠」(パターン)がありますが、補助額は最大で1億円、補助率は最高で3/4と、従前の中小企業向け補助金制度にくらべると非常に魅力的な制度です。
詳しくは、経済産業省の事業再構築補助金のサイトなどをご覧ください

概算払いとは?

事業再構築補助金に限らず、一般的に補助金の支給は「後払い」です。事業再構築補助金の「補助事業の手引き」などでは「精算払い」と呼ばれています。
事業再構築補助金の申請が「採択」されると、次に「交付申請」を行ない、「交付決定」後に補助金の対象となる工事や物品の購入などの「補助事業」を実施し、その「実績報告」を行ない、これに基づいた「補助対象経費」の支払いが確認されて初めて、支給される補助金の額が「確定」し、それに沿って「精算払い」の申請を行ない、補助金が入金してきます。あぁ~長い文章だ。

つまり、対象となる経費を一旦事業者の側が全部支払った後でないと、補助金は支払われない、というのが原則なのです。
ところが、「補助事業」の期間内に一部の経費について事前に金額の概算をして支払ってもらえる制度があります。これが「概算払い」です。

概算払いに必要な書類

では概算払いを受けるにあたって必要な書類などはどんなものがあるのでしょうか?
概算払いに必要な書類の基本は「様式第9-1 補助金概算払請求書」及び「様式第9-1の別紙」です。
それに加え、前述の「実績報告」の手続きをする際と同等の書類の提出が必要となります。
概ね以下のような書類です。

  • 見積依頼書(仕様書がある場合仕様書も)
  • 見積書(相見積書もあれば提出。)
  • 発注書や注文書
  • 請書や注文確認書、契約書
  • 納品書や引渡書、または完了報告書
  • 納品時の写真
  • 請求書
  • 銀行の振込金受領書または支払証明書
  • 出納帳
  • 補助事業者の通帳コピー

本稿は手続きの進め方を詳報することを意図していませんので、詳細は「実績報告書等作成マニュアル(J グランツに添付が必要な証拠書類)」をご確認ください。

請求手続きの流れ

上記の必要書類を準備し、Jグランツから申請します。
Jグランツとは、補助金申請業務を簡素化するため、経済産業省がリリースした電子申請システムのことで、事業再構築補助金をはじめ様々な補助金の交付申請や実績報告などの諸手続きの多くは、Jグランツ経由で申請することが求められることが多いです。
審査承認後、1~2か月前後で指定口座に振り込みがあるそうです。

筆者の場合

前置きが長くなりました。
では、この事業再構築補助金 概算払い制度。
いったいどんな「落とし穴」があったのか?
筆者の経験をお話ししましょう。

これまで筆者は、何社かのクライアントに対して新規事業を提案し、資金に関しては事業再構築補助金を利用すべく申請した実績がありますが、この「概算払い」を活用すれば、補助事業完了までの間に銀行などからのつなぎ融資が受けられない企業が、資金がなくても補助事業が進められるということを知りました。事業の途中で申請すれば必要金額の9割程度が事前に振り込まれるとのこと。

それならばということで某宿泊施設の再生事業で事業計画を練り、事業再構築補助金に申請したところ、見事採択されました。第2回の公募においての話です。

このクライアントは業種柄コロナ禍の影響を甚大に受け、補助事業となる設備投資の資金について銀行からの融資が難しいため「概算払い」を利用することにしたのです。

その時点での「事業再構築補助金【補助事業の手引き】」(リンク先は本稿執筆時点の最新版)には、

「補助事業実施期間中、事務局が必要であると認めた経費については、概算払を行います。概算払
を受けたい場合は、「様式第9-1補助金概算払請求書」及び「様式第9-1の別紙」により、
申請してください。概算払額は、支払済み経費(近々、支払い予定含む)補助対象経費×補助率×0.9を上限額とします。
(以下略)」

と記載されていました。

よし、コレだ!
補助事業を粛々と進めていったのですが・・・。

そこに落とし穴があった

数ヶ月後。
補助事業が進展し、いよいよ概算払いを申請するステップに来たため、事務局にその具体的な方法を問い合わせると、最近概算払いのルールが変わったとの説明。この事業再構築補助金はよくルールが途中変更になるんですよね。
そして今回のルール変更は、申請者が資金を一旦全額負担しなければならなくなったとのこと。

ええっ!!
補助事業の手引きを改めて見てみると、改訂がされていて
「概算払請求額は、支払済み経費(納品済みであること)補助対象経費×補助率×0.9を上限額とします。」
となっているではありませんか!!!
(近々、支払い予定含む)の語句が消えている!

「それって概算払いではないですよね」と事務局の窓口に問い詰めたところ、「私もそう思います」と言う回答。この憤りはどこにぶつけたらいいのでしょうか!
銀行からの融資が難しい状況だったけれど、この補助金ならと進めてきたのに。この時間と労力を返してほしい。
窓口の方には同情していただきましたが、だからといってなんの解決にもなりません。
周りに聞くとこの状況に追い込まれた方は多数。ネットにもクレームが多く上がってるとか。
申請時に決まっていたルールがいつの間にか変わってるなんて・・・。

まとめ

最近の事業再構築補助金には「回復・再生応援枠」が新設され、「事業再生に取組む中小企業等の事業再構築を支援」とあります。(第6回公募要領)
取引金融機関から借入金の返済猶予を受けつつも、起死回生の事業再構築計画を立案し、事業再構築補助金で資金を賄おうという事業再生プロセスにある企業が実際に多数存在します。
こうした企業の中には、取引金融機関から「既存の融資については返済は当分猶予します。でも、補助金に関する新規融資はできません」と言われているケースが少なからずあると聞いています。
筆者のクライアントもそのうちの1社でした。
ルール変更がなされてからの申請者はともかく、変更前に概算払いを資金繰りに組み込んで申請した中小企業に対しては、何らかの経過措置があっても良いように思うのですが。

事業再構築補助金、概算払いの落とし穴にはどうかご用心を・・・。

(この稿おわり)

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