中小企業活性化協議会発足;再生支援協議会から名称変更。何が変わった?どう活用する?

中小企業活性化協議会発足;再生支援協議会から名称変更。何が変わった?どう活用する?

2022年5月15日 オフ 投稿者: Hill Andon

2022年4月1日、中小企業活性化協議会が発足しました。
同年3月に公表された「中小企業活性化パッケージ」の中では、「全国47都道府県にある中小企業再生支援協議会を関連機関と統合し、収益力改善・事業再生・再チャレンジを一元的に支援する「中小企業活性化協議会」を設置。」と謳われています。
中小企業の経営改善/事業再生に関わる人々にとっては、ちょっとしたトピックでしたが、一般の方々にとっては「なんのことやら・・・」ですよね。
本稿では、この出来事が一般社会にとって、様々な経営課題に悩む(特に財務面)中小企業にとってどういう意味を持つのか?中小企業の経営課題の解決にどのような役割を果たすのか?従来の中小企業再生支援協議会が実施してきた事業からどのように変わるのか?等について解説します。

中小企業活性化協議会発足の経緯

そもそも中小企業再生支援協議会とは?

中小企業再生支援協議会は、産業競争力強化法134条に基づき、全国に設置され、経営課題(とりわけ財務面)を抱える中小企業に対して、再生計画策定支援・コロナ特例リスケジュール・再チャレンジ支援などの支援メニューを提供してきました。
代表的な「再生計画策定支援」については2003年の発足以来、延べ16,000件以上の実績があります。(2021年12月時点)
そして、2002年4月より関連機関の経営改善支援センターの行なっていた「経営改善計画策定支援事業」をあわせて実施する、「中小企業活性化協議会」として再編されたのです。

それはある新聞記事がキッカケだった・・・?

2021年9月、日経新聞の朝刊1面にある記事が掲載されました

「過剰人員、基金食い潰す」と題されたその記事は、中小企業基盤整備機構が設置する基金を原資に実施されている「経営改善計画策定事業」について、低調な利用状況にもかかわらず人員過剰等に起因する多額の管理費が費やされている、つまり公費の浪費を指弾する内容でした。
経営改善計画策定事業は、中小企業再生支援協議会の関連機関である経営改善支援センターが実施しており、この記事による批判を重くみた国が、中小企業の経営改善に関する諸事業を効率化しようと、中小企業再生支援協議会と経営改善支援センターの統合を軸とする今回の再編が構想されたのではないかと言われています。

何が変わった?中小企業活性化協議会の機能

それでは、今回の再編によって何が変わったのか?
統合された中小企業活性化協議会(協議会)の機能には具体的にはどんなものがあるのか?について見ていきましょう。
協議会の支援メニューは大きく4つに分かれています。

  1. 収益力改善支援事業(新制度)
  2. 事業再生支援
  3. 再チャレンジ支援/保証債務整理への支援
  4. 経営改善計画策定支援事業
(中小企業庁のホームページより)

これらについて、旧中小企業再生支援協議会の支援メニューとの対比しながら順に解説していきます。

1.収益力改善支援事業(新制度)

収益力改善事業は中小企業活性化協議会の発足と共にスタートした新制度です。
「有事に移行しそうな中小企業者を対象に、収益力改善計画(収益力改善アクションプラン+簡易な収支・資金繰り計画)の作成を支援」する制度です。(中小企業庁ホームページより)
いきなり「有事」という言葉が出てきましたが、これは同時期(2022年3月4日)に公表された「中小企業事業再生ガイドライン」が意識されていると思われ、同ガイドラインで使われている「有事」の定義「収益力の低下、過剰債務等による財務内容の悪化、資金繰りの悪化等が生じたため、経営に支障が生じ、又は生じるおそれがある場合」がここでも当てはまると思われます。
つまり「収益力の低下、財務/資金繰りが悪化し経営に支障が生じそうな企業に『経営力改善計画』の作成の手助けをしましょう」という事業ということになります。
経営力改善計画とは書式が中小企業庁のホームページで公開されており、「現状分析」「課題・アクションプラン・モニタリング計画」「計画数値」「月次損益・資金繰り表」といったシートが用意されています。
計画期間は1年~3年が想定されていますが、金融機関に対する返済の猶予もしくは緩和を求める場合は1年の計画のみが認められています。
この「1年間の金融支援付き計画」は2022年3月をもって終了した「新型コロナウイルス感染症特例リスケジュール」(特例リスケ)制度とほぼ同じ枠組みです。
「特例リスケ」は2020年度から2021年度にかけて運用された制度で、コロナ禍の影響を受けた企業に対し、1年間の資金繰り支援(基本的には金融機関に対する元本返済の猶予)を協議会の前身である中小企業再生支援協議会の旗振りの下で行なっていた制度で、2年間に4,000件弱の支援実績があったようです。
支援を受けた企業の中には今もコロナ禍の影響から脱却できず窮境が続き、金融支援の継続が必要な先(つまり「有事」状態にある先)が相当数あることが見込まれるため、収益力改善計画の「1年間金融支援あり」バージョンではそういった先を支援する「特例リスケ」の後継制度たらしめようという狙いもあるようです。
一方、それ以上の期間(3年まで)の計画においては金融支援は想定されておらず、自社の経営状態を客観的に把握し、課題解決に向けたアクションプランを設定して実行、モニタリングする、ことが主眼となっています。
つまり「中小企業経営に秩序や規律をもたらしましょう」というのがこの制度のコンセプトと言っても良いのではないかと思われます。
計画の策定には必要に応じ、会計士や中小企業診断士などの専門家を紹介してもらうことができ、その費用について補助金が用意されているようです。
詳細は各都道府県の協議会にお問い合わせください。

2.事業再生支援

事業再生支援は、前身の中小企業再生支援協議会が行なってきた再生計画策定支援事業をほぼそのまま踏襲した支援メニューと言って良いと思われます。
中小企業庁のホームページには、
「収益性のある事業はあるものの、財務上の問題がある中小企業を対象としています。中小企業活性化協議会は、中小企業者に対して、中立公正な第三者機関の立場から、助言を行い、再生計画の作成のサポートを実施します。」とされています。
「再生計画」は事業と財務の実態把握(デューデリジェンス)を前提として、公認会計士や中小企業診断士が策定支援にあたります。内容的には事業の建て直し(売上や収益性の回復のためのアクションプランと数値計画)と財務の建て直し(金融機関に対する元本返済の緩和や猶予、場合によっては債務の免除や劣後化のスキームと返済計画)が両輪となります。
協議会が定めた数値基準(5年以内の実質債務超過解消・3年以内の経常黒字化・実質債務超過解消年度における有利子負債の対キャッシュフロー比率10倍以下)があり、基準を満たす計画を「再生計画」、満たさない計画を「プレ再生計画」と呼びます。(後者は、従前は「暫定計画」と呼ばれていました)
この数値基準は再生支援協議会時代と同じ基準ですが、もともとかなり柔軟に運用され(債務超過解消年数がもっと長い等)ていたのですが、このたびは「小規模な事業者」の基準として

  1. 再生計画成立後2事業年度目(再生計画成立年度を含まない。)から、3事業年度継続して営業キャッシュフローがプラスになること。
  2. 相談企業が事業継続を行うことが、相談企業の経営者等の生活の確保において有益なものであること。

が示され更に緩くなった印象があります。

余談ですが、金融機関の債務者区分を決定する「自己査定」においては、上記基準を満たす計画を「合実計画」(合理的かつ実現可能性の高い経営改善計画)と呼び、債務者区分を格上げする根拠とされていましたが、2019年に金融検査マニュアルが廃止されたことに伴い、「合実計画」の認定根拠が各金融機関の裁量に委ねられるようになり、ますますこの基準の位置づけが微妙なものになってきているように感じます。

とは言え、この事業再生支援事業の手続きは、「準則型私的整理手続」と呼ばれる、根拠法令に基づいて制度化された私的整理手続で、いわば「公認の私的整理」の代表的なものです。
窮境に陥った中小企業が金融機関に対し返済条件の緩和などの金融支援を求める際にはまず最初に検討すべきオプションといえるでしょう。

計画策定とデューデリジェンスには半年から1年程度の期間を要し、その間は「返済猶予のお願い」が協議会から発状され、金融機関はそれに対応して返済のストップに応じます。
何回かの債権者集会(バンクミーティング)を経て、計画について債権者である全金融機関の同意が出揃えば「計画成立」。
金融機関は計画の内容に沿って数年~十数年間の返済条件の緩和(場合によっては債務免除や劣後化)を実施します。
計画策定に要する費用が数百万円かかると言われていますが、その何割かに対しては補助金が支給されるようです。
手続きの詳細については各都道府県の協議会にお問い合わせください。

3.再チャレンジ支援/保証債務整理への支援

こちらも中小企業再生支援協議会が2018年から行なってきた支援メニューの継続です。
中小企業庁のホームページには、
「収益力の改善や事業再生等が極めて困難な中小企業者や保証債務に悩む経営者等を対象に、再チャレンジに向けた支援を実施します。」とされています。
再チャレンジ支援は、「円滑な廃業」「経営者等の再スタート」に向けた支援を行なうもので、法的な破産手続を選択した場合に比べ、

  1. 従業員の円滑な転職機会の確保
  2. 経営者等の地元での容易な事業の再スタート
  3. 取引先の連鎖倒産の回避

等を実現しようというものです。
具体的には弁護士等の専門家の紹介や助言、「経営者保証に関するガイドライン」等を活用した企業の債務に対する経営者の個人保証債務の整理を支援すること等を行なっています。
こちらについても詳細は各都道府県の協議会にお問い合わせください。

4.経営改善計画策定支援事業

この事業は先にも少し触れた「経営改善支援センター」が行なってきた「経営改善計画策定事業」(センター事業)を引き継ぐものです。
「経営改善支援センター」はたいていの都道府県では中小企業再生支援協議会と併設的に運営がなされており、一部では要員の兼務も行われていたようです。
それが、このたびの再編により協議会に統合され、協議会の事業として引き継がれたものです。
では、そのセンター事業とはどのようなものなのでしょうか。
財務上の問題を抱えて金融支援が必要な企業が、国の認定を受けた外部専門家(経営革新等支援機関)の支援を受けて経営改善計画を策定する場合に、それに要する費用について一定の補助金を支払う事業です。
「1.とか2.とどう違うの?」って思いますよね。
確かに紛らわしい。
端的に言えば、センター事業とは「補助金支払の事務手続きを行なう事業」です。1.や2.においては、計画策定プロセスそのものを協議会がイニシアティブを取って推進していきますが、4.においてはそうしたことはしません。
2.のような「準則型私的整理」の手続きに依らず、国の認定を受けた税理士・公認会計士、中小企業診断士等(経営革新等支援機関)が、事業者を支援して経営改善計画を策定した場合に要する費用について、一定の要件を満たした計画に対して補助金を支払いましょう。その手続きを行ないましょう。という事業で、その原資が中小企業基盤整備機構が設置する基金にある、というものです。
詳しくは、前述のそれはある新聞記事がキッカケだった・・・?の項をご覧ください。
この事業の対象となる経営改善計画には2種類あり、金融支援を前提としない「早期経営改善計画」と金融支援ありの「経営改善計画」です。いずれも国が認定した「経営革新等支援機関」が策定支援を行なう必要があります。
「なんか、1.とよく似ているよな。どう使い分けるの?」
そうですよね。筆者もそう思います。
このあたりの考察については次項で改めて。
この事業の詳細についても各都道府県の協議会にお問い合わせください。

どう活用する?中小企業活性化協議会

ここまで、再編/統合/改称された中小企業活性化協議会の支援メニューを見てきましたが、この新生(?)中小企業活性化協議会をどのように活用すべきなのでしょうか?

2.事業再生支援
3.再チャレンジ支援/保証債務整理への支援
については制度の根幹にかかわる大きな変更はなく、おそらく従来通りの活用パターンが踏襲されると思われます。
具体的には、2.3.のニーズがある企業について、その企業の取引金融機関や顧問の税理士/会計士経由で(稀に企業自身から)相談が協議会に持ち込まれ、企業の経営者との面談を経て意思確認を行ない、支援決定に至るという流れでしょう。
ただ、中小企業庁としては支援決定に至らずとも事前の相談や経営者との面談(いわゆる経営相談レベルでも良いので)を増やしたいという意向がある模様で、協議会を「中小企業の駆け込み寺」として今まで以上にプロモーションしていきたいようです。

気になるのは、
1.収益力改善支援事業
4.経営改善計画策定支援事業
です。
コロナ特例リスケの後継制度としての位置づけもある、1.の「計画期間1年・金融支援あり」バージョンはともかく、1.の「計画期間3年以内・金融支援なし」バージョンはどのような使われ方をするのか?がいまいちイメージが湧きません。
4.の「早期経営改善計画」との差異についても、策定プロセスを協議会がイニシアティブをとるのか、「経営革新等支援機関」がイニシアティブをとるのか、の違い程度(のように筆者には思えます)では、ユーザーたる中小企業にとっては困惑するばかりでしょう。

利用が低調で先細り気味な4.の「早期経営改善計画」「経営改善計画」の2制度については、もっと明確な利用イメージを打ち出していかないと、「制度存続が自己目的化している」などとまたメディアに批判されないとも限りません。

以上、中小企業活性化協議会の事業について概観しました。
協議会の活用にあたっての参考となれば幸いです。

(この稿おわり)

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