サービサートライアルとは?再生系サービサーの活用で中小企業の事業再生はどう変わる?

サービサートライアルとは?再生系サービサーの活用で中小企業の事業再生はどう変わる?

2023年3月12日 オフ 投稿者: Hill Andon

「サービサートライアル」「再生系サービサー」といった言葉が一部の金融関係者の口の端にのぼるようになりました。
あまり聞きなれない言葉ですね。
本稿では、これらの言葉がどうやって生まれてきて、何を意味するのか?金融の実務の中ではどのように機能するのか?といった事柄について解説したいと思います。

そもそもサービサーとは?

「トライアル」とか「再生系」とかの前に、そもそもサービサーって何なの?
という疑問もあるかと思います。
この項では「サービサーとは?」について簡単に触れておきます。
既にご存知の方は飛ばし読みしていただいて結構です。

一般社団法人全国サービサー協会のウェブサイトによると、サービサーとは、「金融機関等から委託を受けまたは譲り受けて、特定金銭債権の管理回収を行う法務大臣の許可を得た民間の債権管理回収専門業者」とされています。
また、「弁護士法により、弁護士または弁護士法人以外のものがこの業務を行うことは禁じられていましたが、不良債権の処理等を促進するために「債権管理回収業に関する特別措置法(サービサー法)」が施行されて、弁護士法の特例としてこのような民間会社の設立ができるようになりました。」とも書かれています。
そして、「特定金銭債権とは、サービサー法で規定される次のような金銭債権(主なもの)」とされています。

  1. 金融機関等が有する貸付債権
  2. リース・クレジット債権
  3. 資産の流動化に関する金銭債権
  4. ファクタリング業者が有する金銭債権
  5. 法的倒産手続中の者が有する金銭債権
  6. 保証契約に基づく債権
  7. その他政令で定める債権

補足しますと、サービサーが取り扱う債権は「紛争性がある」債権ということです。
従来「紛争性のある」しかも「特定金銭債権」のような債権の取り立て行為は、債権者本人か弁護士でないと行ってはいけない、とされていたのですが、1999年施行のサービサー法によって、一定の要件(かなり厳しい)を満たせば民間の会社でも執り行えることになりました。
背景には当時の日本の金融危機、不良債権問題がありました。

不良債権とは、金融機関が保有している貸付金などで回収が困難になった(=紛争性のある)債権のこと。
上記の「特定金銭債権」の1.がまさにそうですね。
この不良債権を迅速に柔軟に回収するために、しかし、反社会的勢力などが参入できないように厳格な審査のもとで民間にも委ねよう、というのがサービサー発足に込められた意図だと筆者は考えています。

法務省より認可を受けたサービサーはピークでは100社を優に超えていましたが、不良債権問題の沈静化や金融円滑化法の施行などによってその数は減少。現在は75社が全国サービサー協会に加盟しているようです。

サービサーのビジネスモデル

サービサーのビジネスモデルは2つに大別されます。

1.債権回収の受託

サービサーは委託先から債権の回収を受託して回収できた債権の一部を回収手数料として受領します。
手数料ビジネスですね。
比較的銀行系のサービサーに多く、親銀行の不良債権の回収を受託します。

2.債権買取&回収

サービサーは債権者から債権を廉価で買い取り、債務者との交渉を通じて買い取り価格以上の回収を行って収益を確保します。
金融機関には手間ばかりかかって回収が困難な不良債権を損切りしてでも手離れしたい(オフバランス)インセンティブが働き、債務者企業にとってはサービサーとの交渉如何で債務免除を勝ち取れる可能性があるのでこのビジネスモデルが成立します。
例えば、銀行の持っている100万円の債権をサービサーが20万円で買い取り、債務者からは50万円の回収で残りを免除する・・・。といったイメージです。
実際には20万円で買った債権を、それ以上回収できるかどうかはわからない(不良債権なので)ので、一種の投資ビジネスということができます。

再生系サービサーとは?

そうしたサービサーの一部が「再生系サービサー」なの?「再生系サービサー」ってナニモノ?
その疑問にお答えしましょう。

再生系サービサーの「原型」

サービサー法によって誕生したサービサーですが、彼らは様々な業態/得意分野を持っていました。
CMBSなどの証券化商品の債権回収を行うサービサー、個人のクレジットなど小口債権の回収が得意なサービサー、不動産担保融資の不良債権の回収を得意とするサービサーetc.
これらの中で、金融機関から取引先(主に法人)向けの貸付債権などを買い取り、債務者企業の事業再生の支援を行うサービサーも出てきました。
業績が悪化し、借入が不良債権化している法人の中には、前述の2.債権買取&回収の機能を生かせば、借入金返済の負担が軽くなり、事業を立て直せる可能性があるケースもあるわけです。
これらの企業の「再生」のお手伝いを得意とするサービサーが「再生系サービサー」の「原型」です。

中小企業活性化パッケージNEXT

しかし、本稿で言及している「再生系サービサー」は少しニュアンスが異なります。
この「ニュアンス」を理解していただくには「中小企業活性化パッケージ」「中小企業活性化パッケージNEXT」に触れなければなりません。
「中小企業活性化パッケージ」は、2022年3月に経済産業省・財務省・金融庁が連名で公表した中小企業向けの政策パッケージで、「コロナ資金繰り支援の継続と収益力改善・事業再生・再チャレンジの促進」を謳っています。
その「活性化パッケージ」の支援策をさらに加速するために「中小企業活性化パッケージNEXT」が同年9月に公表されました。
この「パッケージNEXT」では、「中小企業の収益力改善・事業再生・再チャレンジの総合的支援」が謳われ、その中の施策の一つとして「中小企業活性化協議会との連携による、再生系サービサーを活用した支援スキームの創設」が盛り込まれているのです。
ようやく「再生系サービサー」が出てきましたね。

改めて再生系サービサーとは?

雑誌「金融財政事情」2023.2.21号に掲載されている横田直忠弁護士の記事によると、
「2022年2月以降、官・民のさまざまな勉強会において、サービサーを活用した事業再生支援の在り方が検討されてきた。その中で出てきたのが中小企業活性化協議会(以下、協議会)と再生系サービサーとの連携だ」と書かれています。
さらに、「協議会との連携を希望するサービサーが(中略)申込書を提出し協業を深めていく取り組み」との記述があり、これは「パッケージNEXT」に謳われている「中小企業活性化協議会との連携による、再生系サービサーを活用した支援スキームの創設」のことを指しているものと思われます。
そして、「この取り組みに参加するサービサーが「再生系サービサー」と呼ばれている」と。
前述したように「再生系サービサー」の「原型」は従来より存在していたわけですが、「パッケージNEXT」の公表に伴い、そこで謳われている中小企業活性化協議会との連携スキームに参加するサービサーをして「再生系サービサー」と定義した。というワケです。
(中小企業活性化協議会については、拙稿「中小企業活性化協議会発足;再生支援協議会から名称変更。何が変わった?どう活用する?」をご覧ください。)

サービサートライアルとは?

この再生系サービサーと中小企業活性化協議会の連携取り組みが「サービサートライアル」で、「完成したものではなく試行錯誤しながら成熟させていくフェイズにあるもの」という意味合いが込められて「トライアル」とされているものと思われます。
このサービサートライアルには全国サービサー協会加盟75社のうち32社が参加しているようです。(2022年12月20日時点)

サービサートライアルは機能するか?

想定される機能

さてこうしてスタートしたサービサートライアル。
具体的にはどのような機能が想定されているのでしょうか?
中小企業活性化協議会は「準則型私的整理手続」としての「再生手続」を主たる機能としているわけですが、サービサートライアルはこの「再生手続」と連携してサービサーの機能をどのように盛り込むか?という視点で考案されているものと思われます。

前述の雑誌「金融財政事情」2023.2.21号の別の記事「コロナ債務の返済本格化で急がれる再生系サービサーのフル活用」には、中小企業庁や中小企業活性化協議会がサービサートライアルの連携案として

  1. 取引正常化支援
  2. サービサー売却オプション(再生支援期)
  3. サービサー売却オプション(プレ再生支援期)
  4. 廃業型私的整理手続きの活用

が挙げられています。

これらがどのように定義されているのか?詳細は不明ですが、筆者が推測するところではサービサートライアルは以下のような機能が想定されているのではないかと考えます。

1.取引正常化支援

既にサービサーに債権が譲渡(もしくは債権回収が受託)されている企業の債務整理に活性化協議会が関与し、サービサー債権の「出口」として金融機関のリファイナンスを組み込んだ再生計画の策定を行う。
サービサーが債権者になっている場合、これまでは協議会の手続きのテーブルに乗って来ず、債務整理の交渉が難航するケースがしばしばあったが、相手が「再生系サービサー」であれば、協議会との連携が見込めるため、「出口ファイナンス」を組み込んだ再生計画の策定が容易となる可能性がある。

2.サービサー売却オプション(再生支援期)

協議会が関与する再生計画の多くは、返済の据え置きや軽減を長期にわたり要請するケースが多いが、金融機関の中にはそうした要請に応じず、一括弁済を受けて債権者の立場から降りたい、と望むケースがある。
そうした場合に、その債権を再生系サービサーに売却するオプションを付与し、再生系サービサーが新たな債権者として再生手続きの当事者として関与することを組み込んだ再生計画を策定する。
再生系サービサーは原債権者から債権を廉価で買い取っているので、債務者企業は再生プロセスの中で債務免除が受けられる余地が生じる。

3.サービサー売却オプション(プレ再生支援期)

上記2.とほぼ同じ。
「再生支援」「プレ再生支援」は協議会手続きの種類の違い。
要約していえば、「再生支援」は協議会の数値基準を満たした長期(10-20年)の「再生計画策定支援手続き」、「プレ再生支援」は協議会の数値基準を満たさない比較的短期(3年程度)の「プレ再生計画策定支援手続き」のこと。
プレ再生計画策定支援の手続きプロセスでサービサーへの債権売却オプションを計画に組み込むこと。

4.廃業型私的整理手続きの活用

対象企業が「再生」ではなく「廃業」を志向する際、債権売却して早期に廃業手続きからの離脱を求める債権者がいる場合に、再生系サービサーが関与する。

果たして機能するか?

「サービサートライアル」が盛り込まれた「パッケージNEXT」の公表から半年が経過しました。
果たしてサービサートライアルは現時点では機能しているのでしょうか?また、今後は?

前述の 雑誌「金融財政事情」2023.2.21号のいくつかの記事を読む限りでは、サービサー業界全体としては今回のサービサートライアルのスタートは先細り気味であったサービサー市場を活性化するカンフル剤になるのでは?という期待感があるようですが、一方で、記事の中で、協議会と再生系サービサーとの「対話」「相互理解に基づく有機的な連携」が求められているなど、各地の協議会との個別案件のハンドリングとなると、お互いの目線の違いもあってすべてが円滑に進んでいるわけではない、というニュアンスが読み取れます。

筆者の個人的見解としても、

  • 個々のサービサーの回収担当者が(たとえそれが「再生系サービサー」であっても)、活性化協議会手続という「面倒なおカミの手続き」に巻き込まれることを良しとせず、必ずしもサービサートライアルに積極的に関与にしたがらない可能性も否定できないのではないか?
  • 各地の活性化協議会の担当者の中にはサービサーとの実務経験に乏しく、あったとしても再生手続きを「邪魔された」と認識しているケースも少なからずあり、連携に消極的になってしまうのではないか?

といった懸念が想起されます。

中小企業活性化協議会と再生系サービサーとの連携が中小企業の事業再生手法として機能し得るのか?というテーマについては、今後さらなる「トライアル」が必要なのかもしれません。

(この稿終わり)