事業再構築補助金 ~「再構築指針」公表~

事業再構築補助金 ~「再構築指針」公表~

2021年3月21日 オフ 投稿者: Hill Andon

注目の補助金;事業再構築補助金を申請するにあたって重要な意味を持つ「事業再構築」の定義を示した「事業再構築指針」および「事業再構築指針の手引き」が先頃公表されました。https://www.meti.go.jp/…/jigyo_saikoutiku/pdf/shishin.pdf
https://www.meti.go.jp/…/jigyo…/pdf/shishin_tebiki.pdf
本稿では、その内容について簡単にご紹介すると共に、その内容が採択の可能性等にどのような影響を及ぼすのか?について考えてみたいと思います。
なお、本稿では、同補助金の中小企業向け「通常枠」「緊急事態宣言特別枠」を対象とした内容に絞って記述しています。

事業再構築の5類型

さて、事業再構築指針では事業再構築を5つの類型に分けて示しています。

  1. 新分野展開
  2. 事業転換
  3. 業種転換
  4. 業態転換
  5. 事業再編

です。
このいずれかの類型に自社の事業戦略を当てはめて、当補助金を申請することになります。
⑤の事業再編については、会社法上の組織再編行為(合併、会社分割、株式交換、株式移転、事業譲渡)等を通じて①から④のいずれかを実施する派生的な類型で、大半の事例は①から④に当てはまると考えます。
(表1をご参照ください)

補助金を申請しようと考えている自社の事業戦略/計画がどれにあたるか?事業再構築指針にも書かれている「日本標準産業分類」を手掛かりに考えていきましょう。
https://www.e-stat.go.jp/classifications/terms/10

  • 例1)リゾート地のペンション(大分類M 宿泊業・中分類75 宿泊業・小分類751 旅館/ホテル)が、ビジネスパーソン向けにワーケーション用の宿泊施設を整備する場合は、これらの分類を変更することのない事業展開ですので①新分野展開が妥当と考えます。
  • 例2)カニ料理専門店(大分類M 飲食サービス業・中分類76 飲食店・小分類762 専門料理店・細分類7621 日本料理店)が複数ある店舗の1つを中華料理店に改装する場合は、事業の一部を細分類(7623 中華料理店)に変更するので②の事業転換にあたると考えます。
  • 例3)従来量販店向けに製品を卸していたケミカルシューズのメーカー(大分類E 製造業・中分類19 ゴム製品製造業・小分類192 ゴム製/プラスチック製履物製造業)が自社ブランドで直営の小売業(大分類I 卸売業,小売業・中分類57 身の回り品小売業・小分類574 靴/履物小売業)に進出する場合は、大分類から変更しますので③業種転換に該当すると考えます。
  • 例4)クリーニング業者(大分類N 生活関連サービス業・中分類78 洗濯業・小分類781 洗濯業)がその分類を変えずに、無店舗型の宅配クリーニングサービスに進出する場合は、④業態転換と考えられます。

様々な要件

このような類型分けの次には類型ごとに求められる要件が待ち構えており、それぞれ満たすべき要件が異なっています。
(表1・表2をご参照ください)

前述した例1)~例4)でそれらが満たせるかどうか?みていきましょう。
例1)①新分野展開;この類型では提供するサービス(ワーケーション宿泊)の新規性と市場(ビジネスマン)の新規性、新事業が従来のペンションと併せた総売上の10%以上に成長すること。が求められています。表2に記載した個々の要件を、提出する事業計画において満たしている必要があります。
例2)②事業転換 例3)③業種転換においては、前述の分類変更と共にサービスや製品の新規性、市場の新規性が求められ、新たな事業の売上が従来の事業を含めた全体の売上構成比において最高となることが求められています。
例4)④業態転換においては、宅配クリーニングサービスが補助金を申請する企業にとって新規性のある事業(その会社にとって新規性があれば良い。「日本で初めて」である必要はない)であり、かつ、既存店舗の縮小もしくは、非対面での申込み、デリバリー、決済などITを活用した仕組みの構築がなされること、新業態が従来業態を含めた総売上の10%以上を売り上げること、が求められています。
事業計画の策定にあたっては、これら類型ごとの要件の組み合わせをしっかり理解しておく必要があります。

【追記】
2021年3月29日に事業再構築補助金指針の手引きが改訂され、「製品等/製造方法の新規性」に関する要件とされていた「競合他社が製造していない/製造に用いていないこと」が削除されました。
同じく、業態転換類型の該当要件の「施設撤去/デジタル活用(DX)」からデジタル活用が削除されました。代わりに「商品などの新規性要件」が加えられていますが、これは新分野展開類型の「製品などの新規性要件」と同義です。

ハードルはけっこう高い


しかも、こうした要件の組み合わせがある上、個々の要件が求めるハードルも結構高いものがあります。
(表3をご参照ください)

例えば、例5)地方の温泉旅館が遊休地を利用して「グランピング」(豪華で贅沢な施設を予め備えたキャンプ施設)事業を始める場合、類型としては①新分野展開に当てはまると思われますが、サービス(グランピング)の新規性はクリアしているとして、市場の新規性はどうでしょう?従来からの温泉客をターゲットとして展開する戦略では、温泉旅館と顧客の奪い合い(カンニバリゼーション)が生じてしまい、要件を満たさない、と判断される可能性があります。
また、例3)においては、小売店で販売する製品の新規性を明確に打ち出せない場合(これまで作ってきた製品との差別化・同業他社の製品との差別化)、製品の新規性要件がクリアできない可能性があります。
更に例4)で構築する非対面業態のシステムについても活用するIT機器やシステムが汎用的なものばかりでは「不可」となります。ITの世界では標準化を進め、汎用性の高い機器やソフトウェアでなるべく安価に素早くシステム構築を行なおうとするのがいわば常識ですが、その常識に徹し過ぎると補助金が受けられない、というように見えます。
【追記】
3月29日の事業再構築指針改訂により例4)で解説しているデジタル活用投資については要件から削除されました。


これら以外にも、類型共通の悩ましいポイントとして、
例6)相応の事業規模(例;売上30億円)をもつ中小企業が新事業を展開するとして、総売上高の10%(3億円)以上とか、売上構成比で最高となる規模にまで新事業を(3-5年の計画期間中に)育てる、ということが容易に可能か?(そういう計画にしちゃえばいいんだ。と割り切るのもアリですが)
例7)「事業再構築指針の手引き」では、製品の製造量、サービスの提供量の「単なる増大」は要件を満たさない。とされているが、試験的に着手していた新製造方法の本格着手や、試験的に出店していた新業態への本格進出といった事業展開の場合は「単なる増大」なのか?全くゼロから新事業に着手しないと補助金は受けられないのか?といった事柄が想定されます。
こうした疑問点、不審点については近々公開されるであろう、当補助金の公募要領を深く読み込んだり、開設が予定されているコールセンターに問い合わせるなどして、個別事例として解決していくよりないのでしょうが、いずれにせよこの事業再構築補助金、採択⇒交付にはなかなかにハードルの高そうな補助金のように思われます。
(この稿おわり)

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