ビジネスエッセイ;中小企業に財務人材(=CFO)は必要か?-③

ビジネスエッセイ;中小企業に財務人材(=CFO)は必要か?-③

2024年3月5日 オフ 投稿者: Hill Andon

前稿、前々稿では、中小企業の経営における財務業務についてご紹介しました。

前回はこちらから

「思ったより幅広い業務範囲をカバーしてるやん?」と思われたのではないでしょうか?

では、現実問題として中小企業においてそうした幅広い業務を担ってくれる人材を確保するとしたら、どんな人材をどうやって調達すればよいのか?

本稿ではそのあたりについて、筆者なりの考えをお示ししたいと思います。

そもそも中小企業に財務人材は必要か?

前稿では、中小企業における財務業務の具体像としては、資金繰りの管理・資金調達(交渉)・経営計画の策定・管理会計の仕組み構築・経営計画や管理会計の予実管理・人事/組織計画etc.を挙げました。

また、本業のオペレーションを除くほぼすべての領域の管理体制を整備し、計画を立て、予実管理をすること。つまり「本業以外の経営そのもの」と総括しました。

ここで着目していただきたいのは「本業以外」という言葉。

ほとんどの中小企業において、その会社が抱えている人材は基本的に本業のオペレーションに関わる人材と言って良いでしょう。

モノを仕入れたり、作ったり、運んだり、売ったり・・・。もしくはサービスを提供したり。その会社が売上や収益を創出するプロセスに直接関与する業務を行なっています。

例外的に経理/総務を担当する「事務スタッフ」は存在しますが、その統括は社長が直接行っていることも珍しくありません。

本業以外の「間接部門」は社長とその事務スタッフだけ、みたいな。

そして財務業務もその手薄な「間接部門」が担ってきました。

「ウチは本業に関係ない人材を抱える余裕がないからなぁ・・・。しょうがないわな」

確かに多くの中小企業にとって本業のオペレーションを回すことが最優先課題で、それ以外の業務にリソースを割ける余裕などない、のが実状でしょう。財務業務もその例外ではない、と。

さて、ここでもう一度考えてみましょう。

本当に中小企業に財務人材は必要ないのか?

前稿でご紹介した様々な財務業務(=本業以外の経営そのもの)の担い手は必要ないのか?財務業務は社長と事務スタッフによる「兼務」で対応できる業務なのか?

財務人材(CFO)はさまざまな数字やデータを読み解きながら自社の強みや経営課題を把握します。

金融機関に対しても単に予算や決算を示すだけではなく、説得力のある財務戦略や経営戦略に加え、自社の技術力や将来の事業予測、予測リターンを盛り込んだビジネスモデルなど、経営状態と将来性を具体的な数字で説明することが求められます。

社内においても同様です。例えば資金繰りの計画値と実績値を子細に検討し、増減の理由や改善の施策など「財務面から企業としてすべきこと」を経営者に提案します。

これらの役割を社長が一人で担うには負担が大きすぎますし、社員がサポートすると言っても本業のオペレーションを主な任務とする方々や事務スタッフさんにどれほどのパフォーマンスを期待できるか、というとなかなか難しいというのが偽らざるところでしょう。

財務に関し一定の知見を持ち、金融機関などのステークホルダーと円滑にコミュニケーションできるリテラシーと経験を持ち、かつ経営者の目線で「本業以外の経営全般」を見渡せる財務人材(CFO)がいたとしたら・・・。

「そうやなぁ・・・。そんなヒトおったら、俺ももっと本業に注力できるなぁ・・・」。

どんな人材をどうやって

「確かにウチにCFOがいてくれたら有り難いのはよくわかった。でも実際問題としてどんな人材をどうやって探したらエエんや?」

筆者が考える中小企業のCFOに必要なスペックは以下の通りです。

①資金繰り予定表が作成できること

前稿でも触れましたが、中小企業にとって必須の財務資料でありながら意外に整備されていないのが「資金繰り予定表」です。資金繰り「実績表」ではなくて「予定表」。

過去の実績であれば会計ソフトの操作さえマスターすれば簡単に作成することができますが、「予定表」となると売上見通しに始まり、売掛金の回収サイト、支払いサイト、現金と掛けの割合、季節要因、さらには設備投資の見通しなど様々な要因について「未来」を見通してそれを数字に落とし込む必要があります。

中小企業においてはCFOが自ら手を動かしてこの資金繰り予定表を作成できることが望ましいと考えます。

②金融機関との対話が円滑にできるだけのコミュニケーション能力、金融リテラシーを持っていること

会社の業績が順調な時は、金融機関はみな愛想が良いものです。小難しいことも言いません。

ところがひとたび逆風が吹き始めると途端にあれやこれやと言い出すのが世の中の常。

担当者も元気の良い若手からうるさ型の中堅どころに代わり、場合によっては本部のスタッフが帯同してきて、聞き慣れない金融関連のテクニカルタームを口走ったりします。

こうした面々を相手に、新規融資もしくは既存融資の返済条件の軽減などを交渉するには、彼らとの共通言語(本稿で筆者が繰り返し使っている「金融リテラシー」ってヤツです)を持ち、それなりに交渉の場数を踏んでいることが望ましいです。

融資条件や保証や担保の交渉の結果、後になって「話が違う」などと揉める一因は中小企業側の金融リテラシー不足にあったりもします。

また、担当者が本部と掛け合ったり稟議を挙げたりする際に行内に話を通しやすいような情報提供の仕方や金融機関が体質的に受け入れ易いロジックの提示といった「交渉スキル」については単なるコミュニケーション能力だけでは不十分で、経験がモノを言う世界です。

中小企業の社長さんにとって、CFOがこうした能力を持っていると大変心強いものです。

ただ、CFOがこうした交渉の表舞台に出るかどうかは個別判断が必要です。

会社の置かれている立場(金融機関との力関係やこれまでのリレーション)、CFOのキャラクターや雇用形態(後述します)によっては、すれっからしのCFOがネゴシエイター然として登場すると「なんだコイツは?整理屋か?」と却って警戒されるケースも。

こういう場合は、CFOは黒子として交渉の進め方や想定問答を事前に社長に伝授する、いわば「弾込め」のアドバイザーに徹した方がベターです。

この辺を適切に見極めて対応することもCFOに求められる能力と言って良いでしょう。

③必要に応じて経営計画を策定できる能力

上述のような交渉の過程で、金融機関から「この融資制度を利用するには中期経営計画が必要です」などと「計画づくり」を求められるケースがあります。

こうした計画についても慣れない人が作ると、金融機関から単なる夢物語や決意表明文に過ぎない、と突き返されてしまったりします。

また、資金調達の一環として補助金を申請するときにも経営計画の添付が求められることがありますが、金融機関向けの計画と補助金用の計画では求められるテイストが随分違います

更には改革や成長のための「社内向け計画」となると後述する管理会計の発想が前面に出てきますので、これまた別のテイストとなります。

これらの用途や目的の違いをわきまえた上で社長のアタマの中のイメージを適切に言語化し数値化し、成果物にまとめるのもCFOがやるべき仕事です。

④管理会計の概念を持ち、必要に応じて管理会計の仕組みを構築できること

店舗などの営業拠点ごとの損益や、製品/商品(群)ごとの損益、部門や製造工程ごとの生産効率を損益の形で表すetc.個々の企業のビジネスモデルに即した「切り口」でその会社の現状や課題を適切にあぶり出し、成長や改善に結びつける「管理会計の発想」はまさに「財務的発想」が必要です。

さらにはその発想に沿って現場から情報を吸い上げて加工し、継続的に経営戦略のPDCAに役立てる仕組み(情報収集のフローやルール作り、加工プロセスやフォーマット作りなど)の構築も、中小企業ではCFO自らが汗をかかないと形にすることは困難です。

⑤社内で予実管理を実践する管理能力を持ち合わせていること

多くの中小企業はPDCAが苦手です。

せっかく仕組みを作っても、社員のみなさんは現場のオペレーションに追われてそれを継続的に管理していくことに慣れていません。

また、管理のための会議の場の空気も「ぬるい」ケースが多いです。

社長や経営幹部の方々も必要に応じて厳しく締めることができない(締めた経験がない)こともしばしばです。

このような場合、時として嫌われ役になることも覚悟の上で会議を主催し、継続的に管理していくのも中小企業においてはCFOの役割だと考えます。

(パワハラにならないよう注意が必要ですが)

⑥必要に応じて総務/人事/法務系の業務を何とかこなせるだけの柔軟性/応用力

これまで見てきたように、資金繰りなどの「おカネ」に関する業務に始まり、経営計画といった「戦略」、さらには管理会計をベースとした管理とその体制の維持、に関わってくると派生的に社内の様々な課題と直面することになります。

モノづくりや販売など本業の課題解決は現場のスタッフにお任せするとしても、それ以外の課題解決については「誰がやるんだ?」となればその課題の存在を明らかにしたヒト、つまりCFOがやる以外に適任者はいない、というのが中小企業の実状です。

本来であれば社会労務士や弁護士などに依頼するマターであっても、顧問契約を結んでいる専門家がいないというケースも珍しくないので、一旦はCFOが引き取り、自らの人脈を動員して専門家と相談して解決に向かう、といったアプローチが求められることがあります。

「ナルホドな。いったいどんな属性の人がこれらの業務をこなせるんやろうな?」

そうですね。あくまでも筆者の主観ですが、一例を挙げさせていただきます。

<会計士>

税理士さんや公認会計士さんは有力な候補者です。上述の業務を立派に全てこなせる方もたくさんいらっしゃいますが、一方で全然できない人も。税務申告や監査業務などどちらかと言えば「過去」に焦点を合わせた業務経験の多い先生の場合、「財務人材(CFO)」のスペックとはズレるケースがあるかもしれません。とは言え一般論としては少なくとも①④はできると期待したいですね。また、②③⑤⑥はできる人とできない人がいるといったところでしょうか。

<事業系コンサルタント>

中小企業診断士に代表される方々。営業やモノづくりの改善に特化しているケースも少なくありません。会計や財務を本当の意味で理解されていない方も散見されます。一般的には会計士よりは期待値が低いといっても良いかもしれません。財務がご本職じゃないから当たり前ですかね。もちろん、①~⑥まで全てを完ぺきにこなせる先生もたくさんいらっしゃいます。

<金融機関出身者>

金融機関出身のコンサルタントの方々については2パターンに分けられます。40歳代までの比較的若い方と、50歳代以上のいわゆる「OB」の方と。大雑把に言うと後者の方々は概念としては①~⑥を全てカバーしているが実務ができない人が意外に多いです。金融機関時代は自行オリジナルのITシステムのもとで実務を部下に任せていた方が少なくなく、汎用的なITスキルが低く、また自分で手を動かす発想自体が希薄であるケースがしばしばです。また、②(対金融機関コミュニケーション)については「本職でしょ?」と思いがちですが、年配の方の場合、交渉相手がみな自分の部下に見えてしまうのか、上から目線で接してしまって上手くいかない、という例も見聞きします。

一方、若手の方々は上述のような懸念こそありませんが、経験の絶対量が少ないため①~⑥どれもが中途半端、となってしまう可能性があります。元々の能力は高いので伸びしろは十分にあるのかもしれませんが。

調達/採用パターン

財務人材(CFO)を調達/採用するパターンとしては2通り考えられます。

一つは、フルタイムで勤務できる人材を正社員または嘱託社員などで採用する方法。(雇用形態は二次的要因で、大切なのは「フルタイム」ということです。)

この方式のメリットは、その人材に常時当社の財務業務に従事してもらえる点です。フルタイムですから当たり前ですね。

デメリットは、財務業務に関して言えばフルタイムで勤務してもらうほどの業務量がなく、かといって本業の手伝いをやらせるわけにはいかず(たいていの場合、本業要員としては役に立たない)、その割には報酬が高い。という点です。

中小企業の場合、財務業務は前述のように多岐にわたりますが、反面絶対量はさほどではありません。また、財務業務の特性として緊急度が高いケースは比較的少ないものです。資金繰りがひっ迫して今に金策に駆け回らないと今にも潰れそうな場合などは別ですが。

ですので、財務人材(CFO)をフルタイムで採用してしまうと、社員の方々から「あのオジサン、現場にも出ずにいつもぶらぶらしてるけど、何やってんの?」と言われてしまう可能性もなきにしもあらず。

ということでオススメは業務委託契約による「パートタイムCFO」の採用です。コンサルタント的な扱いですね。

先ほど例示させていただいた様々な属性の人材像も、どちらかと言えばいずれもこの「パートタイムCFO」にフィットしていると考えます。

このパターンであれば、比較的スペックの高い人材をフルタイムで雇うよりはかなり割安で調達することができます。

当然ながらデメリットもあって、なによりフルタイムではないので常時社内にいるわけはなく、社長の気が向いたときに「●●さん、ちょっと来て!」と気軽に相談することができない点です。予め定期的な出社のタイミングを予め決めておくなり、必要に応じてスケジュールを調整する必要があります。

また、常勤ではない人に「CFO」「財務担当執行役」などの肩書を与える抵抗感もあるでしょう。

仮に社長には抵抗感がなくても、取引金融機関からすると「このヒト誰?常勤の社員さんじゃないよね?こんな肩書与えて大丈夫なの?」と警戒されるケースもあり得ます。

社内での立ち位置や対外的な見せ方には工夫が必要です。

ということで、中小企業に必要な財務人材(CFO)像をここまでご紹介してきました。

いかがでしょうか?イメージは湧きましたか?

貴社でもCFOの採用を検討されてはいかがでしょうか?

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