徹底分析!事業再築補助金 事業計画書 ~採択事例の計画書×7を徹底比較~-後編
2021年9月30日前回に続き、「事業再構築補助金」のウェブサイトで公開された7つの事業計画書を読み解くことで「採択される事業計画書」とはいかなるものなのか?という疑問に迫っていきましょう。
事業計画書記載項目
さて、表1は「電子申請入力項目」に記載された入力項目のうち、「4.事業概要」の中の「(5)事業計画書」に記載されている入力事項を一覧表にしたものです。(便宜上「事業計画書記載項目」と呼びます)
補助金の事務局としては事業計画書には表の事項を記載して欲しい、ということです。
表中、濃い青に塗られた項目は、7つの事業計画書全てが何らかの形で当該項目について言及していることを示します。-①(16項目)
また、中淡の青の項目は、事業計画書のうち過半数が何らかの形で当該項目について言及していることを示します。-②(10項目)
そして、淡い青の項目は、3つ以下の事業計画書で言及された項目です。-③(4項目)
これからわかるように半数以上の項目は全ての事業計画書で言及され、過半数の事業計画書で言及された項目と併せると、90%近い項目にのぼります。
そして、③の4項目については、それらの項目が個々の事業計画の内容に該当しないため記載されていない(すなわち記載漏れではない)可能性が高いと考えられます。
つまり、予想されたことではありますが、模範とされるような事業計画書は、事業計画書記載項目のほぼ全ての項目について何らかの形で言及しているということです。
ただ、細かく見ていくと言及漏れ(敢えて言及していない場合もあり得ますが)や曖昧な記載、そのための項目を設けずに他の項目の中で記述している場合などが見受けられます。
読む側(審査する側)の立場になって考えると、こうした処理の仕方はあまり得策ではないというのが筆者の考えです。
たくさんの事業計画書を限られた時間の中で読み、採択の可否を審査する側から見れば、チェックしたい項目がキチンと章立てして明示的に記載されているということを期待しているはずで、そうなっていない計画書を読むことには多少なりともストレスを感じるのではないでしょうか?こうしたストレスは採択の可能性を阻害することはあっても有利に働くことはないと考えます。
事業計画書記載項目のほぼ全ての項目について、項目(章立て)と本文が1対1で紐づけされており、その内容も可能な限り明示的であることが望ましいと考えます。
計画書外記載項目
次に表2です。
表2は、「電子申請入力項目」のうち前述の表1以外の項目、言い換えれば事業計画書に記載することを求められている項目以外の項目、です。さらに言えば、電子申請システムにじかに入力すべき項目と言うことができます。これを便宜上「計画書外記載項目」としています。
実はこの「計画書外記載項目」をどこまで事業計画書に重複記載するか?しないか?が悩ましいところなのです。
実際「計画書外記載項目」全29項目のうち4項目については、過半数の事業計画書で重複記載が見られました(濃い緑の項目)。商号・従業員数・事業類型(通常枠など)・事業再構築の類型(新分野展開など)の4項目で、「そりゃそうだろう。それらを事業計画書に書かないと誰がどんな内容で申請してるかわからないじゃん」と思うような項目ばかりですよね。
ところがこの4項目、全ての事業計画書で重複記載されているわけではないのです。逆に言うと、商号が明記されていない事業計画書がある、「枠」や「類型(新分野展開など)」がはっきりしない事業計画書がある、ということなのです。にもかかわらずしっかり採択されて模範的な事業計画書として公開されている、と。
割り切ってしまえば、これら「計画書外記載項目」を一切事業計画書に記載しなくても「事業計画書記載項目」さえ充実して記載しておけば採択されない理由はない、のかもしれません。電子申請システムの建付け上はそうなります。
筆者も第1回-第2回の公募においてこの部分は随分悩みました。また、他のコンサルタントからも同様の相談を受けました。
「確かに書かなくて良いかもしれないけど、書かないと分かり難いじゃん」と。
事務局に問い合わせたら(問い合わせてませんが)「それは個別判断でお願いします」と片付けられてしまうでしょうが、この「個別判断」こそ実務者を悩ませる言葉はありません。
先に挙げた「過半数の事業計画書で重複記載が見られた項目」以外に、「1~3の事業計画書で重複記載が見られた項目」(中淡の緑)が10項目あります。これらについては申請者が「個別判断」で重複記載を選んだということでしょう。
少なくとも「計画書外記載項目」の半数近くは何らかの理由で事業計画書への重複記載を検討する必要がある、ということです。
今、「何らかの理由」と書きましたが、何らかの理由で最も大きいものは「分かりやすさ」だと筆者は考えます。
事業計画書の狙いは申請者が構想している事業とその背景、補助金が必要な理由と要件を満たしていること、といった事柄について如何に審査する側に理解し納得してもらうか?に尽きます。
この狙いを果たすためには審査する側にとっての「分かりやすさ」は必須です。言うまでもないことですよね。
事業再構築補助金の採択の可否を審査する実務で、どのような方が審査委員として、どのような手順や方法で審査を進めているか、についての情報を筆者は持ち合わせていませんが、少なくとも想像できるのは、添付資料の事業計画書のファイルを開いて(プリントアウトする場合もあるでしょう)、その画面と電子申請システムにじかに入力された「計画書外記載項目」の画面を行ったり来たりしながら申請内容を把握し、採択の可否を判断しているシーンです。
この「行ったり来たり」のプロセスに全くストレスを感じない審査委員というのは稀有なのではないでしょうか?それが年配の審査委員ならば・・・?想像に難くないですよね。
よって筆者は、この「行ったり来たり」プロセスを可能な限り軽減するため必要にして十分な「計画書外記載項目」は事業計画書に重複記載してもかまわない。いやむしろ重複記載すべきだ、と考えています。
もちろん、15ページ以下(補助金申請金額15百万円以下の場合は10枚以下)という分量の制限がある以上、本来記載すべき「事業計画書記載項目」が重複記載によって薄められてしまっては本末転倒です。そうならない範囲で、可能な限りコンパクトに工夫を凝らして、分かりやすさ、網羅感を追求すべきと考えます。
表2「計画書外記載項目」への対応はこの観点から行なうべきではないでしょうか。
その他のポイント
最後に、表1・表2から離れて、7つの事業計画書を全般的に見渡して目についたポイントをいくつか挙げさせていただきます。前編でご紹介した「事業計画書サマリー」の「コメント」欄に簡単に触れている内容と関連します。
- ページ数
7つの事業計画書では、最大16ページ、最小12ページ。大半の事業計画書がリミットいっぱいの15ページの分量です。内容を薄めて15ページに水増ししたという印象の事業計画書はなく、しっかり書き込まれた事業計画書は必然的にそのくらいの分量になってしまう、ということなのでしょう。 - ですます調・である調
文章の語尾の話です。些細なことですが筆者も悩みました。ですます調の事業計画書が4つ。である調が3つと拮抗しています。採択率には無関係(たぶん)と思われ、最終的には執筆者の好み、ということになってしまうのですが、計画書内に「である」と「ですます」が混在しているのは避けた方が良いでしょう。執筆者のリテラシーに疑問符がつきます。「そんなのどっちでもいいじゃん」とおっしゃる方は意外に「混在派」だったりして。 - 写真や図表
「電子申請入力項目」でもその活用を推奨しています。サマリーのコメント欄に記載した「図表写真コラム」の枚数は筆者が大雑把にカウントしたもので厳密さは欠きますが、平均で33枚。1ページあたり2枚以上の図表写真コラムが使われています。見やすさ、分かりやすさへの配慮についてのメルクマールと考えて良いでしょう。 - WORDかパワポか?
文書作成のアプリケーションについて。7つの事業計画書においては6つまでがWORDによる作成と推測されます。圧倒的なシェアですね。やはり「電子申請入力項目」がWORDファイルであること、ものづくり補助金など従来からある補助金の申請書も(というかお役所に提出する文書に標準が)WORDという実績(慣行?)が大きいのでしょう。筆者の実感としては文書作成の柔軟性、可逆性においてはむしろパワーポイントに一日の長があり、図表写真コラムを駆使して見やすさ、分かりやすさを追求するとなるとパワポでの作成に軍配が上がるような気がします。最終的にはこれまた執筆者の好み、の領域ですが。
いかがでしたでしょうか?
7つの事業計画書を参考に筆者なりの「事業計画書のあるべき姿」論を示させていただきましたが、ご参考となったでしょうか。
第3回公募のみならず、それ以降の公募、いや他の補助金申請の局面などでもお役に立てれば幸いです。
(この稿おわり)
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